シャブリエ
【シャブリエについて】
E.シャブリエ(1841〜1894)は、近代フランスのピアノ音楽を代表する一人ですが、同じ頃の作曲家、例えばフォーレ(1845〜1924)、サン・サーンス(1835〜1920)に比べて、短命(53歳)であった事、及びアマチュア上がりで音楽家としての実働期間が短かった事、が原因でその二人に比して『大物度』が若干低いように思われます。実際、彼がフランス政府の役人を辞して、念願のプロの音楽家として立ったのは40歳にならんとする頃でした。
彼は、若い頃からかなり達者なピアノを弾き、なかなかの腕前と伝わっています。現在、シャブリエのもっともポピュラーな作品と云えば、オーケストラ版の『スペイン』狂詩曲が挙げられると思いますが、この曲も原曲は独奏ピアノであり、オペレッタなどの作品がかなりあるにもかかわらず、シャブリエの音楽の本筋はピアノ音楽ではなかったかと考えられます。ただ、ピアノ作曲家として惜しむらくは、彼が『ピアノ協奏曲』を残さなかった事で、これを残していればサン・サーンスの対抗馬になりえたのではないか、と考える人もあります(N.デマス:フランスピアノ音楽史)。シャブリエがもしピアノ協奏曲を書いていたら・・と云うのは、シャブリエ・ファンのみならずフランス音楽一般のファンにとって「夢」の一つでもあります。つまり、シャブリエは、近代のピアノ音楽の中でも、かなりユニークなピアニズムを開発したと云うことであり、この点で、初期のラヴェルのピアノ曲などにかなりの影響を与えているように見えます。
【絵画的小品集】
専門の音楽家となって直ぐに作られた、10曲からなるピアノ小品集です。洒落た個性的な作品が並び、その当時ヨーロッパを風靡していたワーグナーの影響下にありながら、全くティストの異なる、いわば非常に『フランス的な』味わいを持った曲ばかりです。特に明るさとリズム感が目立ち、重苦しいドイツ的な曲は一つも含まれていません。演奏は、結構難しいのですが、プロのピアニストが壇上で拍手喝采を浴びるほどのものではなく、いわば、アマチュア・ピアニストの手頃な対象として恰好の曲集です。
●ムーア風舞曲
ムーア人と云うのは、ヨーロッパとアフリカの間で数千年にわたる歴史を持つ白黒混血人種のことです。曲は、3拍子と6拍子の混じり合った、足を踏みならすような独特のリズムに支えられて、エキゾチックで華やかなフレーズが展開します。シャブリエは役所を辞した直後、スペイン旅行に出かけ、そこで音楽上の多くの刺激を受けて戻ります。『ムーア風』も、そこで受けた刺激が素材になっていると思われます。

●村の踊り
この曲集の中で、有名なものの一つで、『田園組曲』の名でオーケストラ編曲されたものの中にも含まれています。これも、独特のリズム感が曲を支えており、特に中間部で頻出するsfが生き生きとした刺激を与えています。ピアノは本質的に打楽器であることを、再認識させてくれる曲です。
●スケルツォワルツ
明るく快活な曲想の多いシャブリエの作品の中でも、とりわけ華やかでリズミカルな曲です。オーケストラ編曲でも知られ、『絵画的小品集』の中でも、「牧歌」「村の踊り」と並んで良く知られています。