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[1]夜想曲 作品9-1 変ロ短調 | [7]夜想曲 嬰ハ短調(遺作) |
| [2]夜想曲 作品9-2 変ホ長調 | [8]夜想曲 作品72-1 ホ短調 | |
| [3]夜想曲 作品9-3 ロ短調 | [9]夜想曲 ハ短調(遺作) | |
| [4]夜想曲 作品15-2 嬰ヘ長調 | ||
| [5]夜想曲 作品27-1 嬰ハ短調 | ||
| [6]夜想曲 作品32-1 ロ長調 |
【作品9-1 変ロ短調】
ショパンの生前に出版されたものとしては、最初のノクターンです。ショパンはイギリスのJ.フィールドのノクターンを借用する形で彼自身のノクターンを書き始めたと云われています。後々ショパンのノクターンは彼独特のものに発展して行きますが、この曲などはフィールドの影響を色濃く残しています。しかし、冒頭の甘くセンチメンタルな旋律や、中間部分の何やらなまめかしい感じなど、既にショパンらしさは充分に出ており、フィールドのノクターンが現在ではピアノの練習者の「おさらい会」等で取り上げられる程度なのに比べて、この作品は立派に演奏会でも取り上げられます。

【作品9-2 変ホ長調】
ショパンのノクターンの中で、と云うよりもショパンの作品全体の中で最も通俗化して知られている曲の一つです。ポピュラー音楽にもなっていて「To
Love Again」等の名前で知られています。
ノクターンと云うカテゴリは、要するに左手の伴奏にのって右手が歌を歌って行く訳ですが、ピアノという楽器は、ヴァイオリンやフルートに比べて、この『歌う』と云う場面はもっとも苦手です。何と云ってもピアノは一種の打楽器ですから。ところが、ショパンは色々な工夫を凝らしてピアノを充分歌う楽器として扱うことに成功しています。この曲は、曲自体は平易ですが、その工夫が随所に見られ興味深いものとなっています。
《楽譜について》
●運指について
この曲には、ショパンが直接指示したとされる指使いがいくつも残っています。大変個性的な指使いで、ショパンの演奏を知る有力な手がかりの一つと考えて、一部その運指を付けました。無論、異なった手には異なった運指があるべきで、これを守らなければならない理由は、何もありません。参考として見ていただければ良いと思います(・・が大変参考になります)。
●異稿譜について
この曲はショパンが存命当時から人気があり、この曲のレッスンを直接ショパンから受けた、と云う記録がたくさん残っています。それらによると、ショパン自身は、楽譜の通りには、あまり弾いていなかった様子で、メロディを即興的にくずしながら弾くのが常だったようです。その装飾例が、今でもいくつか残っており、あるものは出版もされています。それらの中から、私が適当に選んで、『難しい版』を作りました。最後のカデンツァや、途中の流麗な装飾など、かなり難しくなりますが、弾いてみると、現在でも若干通俗化されてしまったこの曲が、生き生きと再生します。腕に余裕のある方は是非お試し下さい。
【作品9-3 ロ短調】
作品9に含まれる3曲のノクターンの中では、最も人気のない曲ですが、弾いてみるとなかなか面白い。かなり長い曲ですが、中間部分はドラマチックな盛り上がりを見せ、ショパンが「ノクターン」の形式に多くのものを盛り込もうとする意図が感じられるからです。
作品27−1の説明にも書きましたが、どうもショパンはこのノクターンという形式が肌に合っていたみたいで、単に『夜想曲』と云う名前から連想する静かな雰囲気だけではなく、この形式を使って色々な表現の実験をしてみたかったようです。
【作品15-2
嬰ヘ長調】
作品27-2の変ニ長調のものとならんで、もっとも夜想曲の題名に相応しい曲です。メロディの装飾はきわめてあでやかで、美しく、いわゆる「ショパン節」の最高傑作の一つだと思います。この曲を弾いてみてあらためて思うことは、ショパンが如何にバロック的「カンティレーヌ」奏法に近かったかと云うことです。メロディーは、微妙に細かく装飾されますが、不規則連符や小さく書かれた装飾音符でそれが行われるために、左手の伴奏とピタリと合うところは殆どなく、まるで別個のラインのように進んで行きます。これは、全くバロック的テンポルバート奏法そのものです。メンデルスゾーンやシューマンが、バッハの対位法的な作曲技法に大きな影響を受けたのに対し、ショパンはバロック(特にバッハ)からこのような、装飾的演奏法に関して大きな影響を受け、ショパン独特の節回しと演奏法を編み出した訳です。
【作品27-1 嬰ハ短調】
夜想曲の特徴は比較的ゆったりとしたテンポで、左手の伴奏にのって右手が歌う、と云ったものですが、この形がショパンには向いていたらしく、夜想曲と云うジャンルで多くの作品を残しています。現在数えられるショパンの夜想曲は(死後出版されたものを含めて)20曲を越えます。又、作曲された年代も、17歳頃の作品から死ぬ数年前の作品まであり、マズルカやワルツと同じく、ほぼ生涯にわたって書き続けられています。
この結果、同じ夜想曲と云ったジャンルの中でショパンは様々な楽想を盛り込み種々の手法を使ってバラエティに富んだ数々の作品を残すことになりました。美しくあでやかなものから(例:op.15-2)、暗くダイナミックなもの(例:op.48-1)、メランコリックなもの(op.48-2)、等色々な夜想曲が存在します。死ぬ数年前に書かれたもの(op.62-2)等ではショパンに似ず対位法的な動きまで取り込もうとしています。
これらの中で、この曲(op.27-1)はとりわけ暗くダイナミックです。又、作曲技法的には単一のモチーフで全曲を統一しようとしたところがあり、この事が全曲が独特の緊張感で支えられると云う結果を生んでいます。この故にこの曲が一種ベートーヴェン的であると評される事がありますが、云われてみるとなるほど、テーマの形、調性、途中のカデンツァ等、ベートーヴェンの「月光ソナタ」を思わせるところがあります。

【作品32-1 ロ長調】
最後にデクラメーションの付いた、珍しい形の夜想曲です。このデクラメーションはヘ短調の前奏曲(作品28-18)を思わせるもので、この部分のおかげで、それまで続いてきた夢見るような美しい夜想曲が、何やら思わせぶりになります。このショパンのちょっとした気まぐれは成功しているように思います。なお、最後の和音は長3和音になっている版も多いようで、どちらでもかまわないと思います。私は、フランス初版の短3和音を採りました。
【遺作 嬰ハ短調
B.Index=49】
ショパンの死後1875年に出版された夜想曲ですが、作曲年代は若く、20歳頃の作品と云われています。ポランスキー監督の映画「戦場のピアニスト」中で使われて有名になりました。ショパン特有のセンチメンタルな旋律が奏でられますが、途中では、その頃書いていたヘ短調のピアノ協奏曲の第2楽章からのモチーフが顔を出します。ただ、若干不自然な部分もあり、ツギハギがうまく行っていない印象もあります。なお、イントロが終わって4小節目の左手低音F#は、版によってはD#になっている(パデレフスキー、コルトー)ものもあります(私は、単なる好みでF#を採用)。
【遺作 ハ短調 B.Index=108】
この曲は、ショパン存命中に一度出版されたことがあったようですが、その後長らく行方不明のままで、20世紀になって(1938年)パリで発見されたものです。ノクターンとしてはやさしく弾きやすい部類に入りますが、ショパン特有の右手と左手がバラバラにずれて進んで行く感じは、なかなか難しいです。逆に言えば、そのようなショパン特有のルバート奏法の練習にはもってこいといえます。