R.シューマン

 

シューマンについて
R.Schumannは、メンデルスゾーン、ショパン、リスト等とほぼ同年齢の前期ロマン派を代表する作曲家の一人です。小さい頃から音楽一筋に育ってきた、リストやショパンと異なり、父親の意向もあって当初は職業音楽家を目指したわけではありませんので、その分文学や政治などに教養と関心が深く、意識的な『ロマン主義者』を自覚した音楽家と云えます。この辺りが、同じく広い教養を持っていたメンデルスゾーンと通じ合うところがあり、(音楽的内容は相当異なるにもかかわらず)生涯親友としての関係を持っていたようです。

ただ、若い頃から精神の病に冒され、晩年は悲惨なものとなりました。近年、この精神障害に関する病院の治療カルテが発見された事が報じられ、それによると20歳頃に感染した梅毒によるものとされています(感染させた相手の女性の名も分かっていると云うことです)。

参考→ http://www.yomiuri.co.jp/yomidas/konojune/94/94o7a.htm


【子供の情景 作品15】
「子供の〜」と云う題名がついていますが、子供が弾くための曲ではなく、又(ドビュッシーの子供の領分のような)自分の子供を見て着想した曲でもありません。後にシューマン自身が述べているように「大人の回想であり、むしろ年取った人のためのものです」。各曲には題名が付されていますが、直接の描写ではなく文学的なイメージに近いもので、表題の意味にこだわる事はないと思います。

題名で数えると全部で13曲ですが、第5曲が終わると第4曲にもう一度戻るように指示されていますから、(これをダ・カーポと見なし)第4曲と第5曲は合わせて1曲とも考えられます。従ってシューマンのクララへの手紙にある「12曲ばかりを選び、子供の情景と云う題を付けました、云々」はそういう意味かもしれません。

トロイメライ(第7曲)位までは第1曲冒頭の音型にこだわって曲が構成されていますが、その後はそれほど意識的に統一した結果は見えません。全曲緻密な構成と云うほどのことはないようです。

しかし、「トロイメライ」はシューマン独特の対位法が極めて巧妙に使用されており、短い曲ですが曲集中の傑作、若しくはシューマンの全作品中の傑作にさえ数えられて良い程の出来映えを示す味わい深い曲です。そのため、この曲については、別に取り上げて練習と理解の助けになるような解説を加えています。興味のあるかたはココをクリックしてください。

《各曲の題名》
第1曲 「見知らぬ国々と人々から」
第2曲 「珍しい話」
第3曲 「鬼ごっこ」
第4曲 「むずかる子供」
第5曲 「大満足」→
第6曲 「大事件」
第7曲 「トロイメライ」
第8曲 「炉端にて」
第9曲 「木馬」
第10曲「生真面目」
第11曲「怖がらせる」
第12曲「眠る子供」
第13曲「詩人は語る」


【幻想小品集 作品12より】
『幻想小品集』は『子供の情景』と相前後して書かれた、8曲からなるピアノ曲集です。『子供の情景』よりは1曲が長く、演奏技術上も少し上に位置します。この頃のシューマンはピアノ曲を中心に作曲を行っていて、いわば、シューマン独特のピアニズムの開発期であったと云えますが、1曲目の『夕べに〜Des Abends』はこのピアニズムを充分に感じさせてくれる曲です。

●第1曲〜『夕べに』
2拍子で書かれているにもかかわらず、3連符が中心であるために、3拍子のようにも聞こえ、その錯綜したリズムの中から秘やかな旋律が聞こえてきます。この旋律も、時には内声からのこだまが返ってくるように書かれているために、全体に〜題名通りの〜薄明感がうまく醸し出されて、かなり上出来の作品に仕上がっています。                        

●第2曲〜『飛翔』
この曲集で、第5曲『夜に』と並んで、最も人気のある曲です。充分な演奏効果がある上に、(手が小さくさえなければ)それ程技術的に難しいと云うわけではありません。ただ、手が小さいと大変苦しいパッセージがあります(冒頭のパッセージが右手一本でとれない場合は・・・その後も相当苦しいでしょう)。題名の「飛翔〜Aufschwung」は、取り立てて深く追求するほどの意味はないと思います。力強く大地を蹴るような部分と、浮き上がって風の中を滑空するような部分とが、交互に現れますので、その程度のイメージではないかと思います。                        

●第3曲〜『何故?』
「Warum?〜何故」と云う題の付いたこの曲は、非常に短いのですが、極めてデリケートでナイーヴなシューマン独自の感性を示す作品です。全体に彼独特の対位法的な動きで書かれ、無限に連鎖して、別次元に消えて行くような、巧妙に作られた短いモチーフが、もつれ合いながら、あちらこちらの声部に浮かんでは消えます。同じ頃に書かれた、「子供の情景」中の《トロイメライ》に匹敵する美しい作品であると思います。なお、この曲は、五度調の属七和音から始まる珍しい曲でもあります。


【森の情景 作品82より】
『森の情景』は作品番号から見て分かるように、シューマン晩年(1848年〜1849年)の作品です。シューマンは、33歳(1843年)頃から精神疾患に襲われ30歳半ばで、一旦作曲も出来ない状態に陥ります。数年たって小康状態を取り戻しますが、友人のメンデルスゾーンや長男の死(双方とも1847年)や、3月革命(1848年)の影響で、再び悪化しそのまま自殺未遂へと突き進んで行く過程にありました。

『森の情景』はこの精神疾患に苦しむシューマンが、一時的に小康状態にあったときに書かれた9曲からなるピアノ小品集です。若い頃の幻想に満ちた濃いロマン性はもはやなく、全体に枯れて痛々しいような印象を与える曲集です。

『森』と云う観念は、とりわけドイツ人にとって憧れとロマンの対象で、この曲集もその独特の『森』観念に従って書かれたと思われます。しかし、私にはその独特の森のロマンよりも、この曲集にどことなく含まれる「メンデルスゾーンへの追悼」に心が惹かれます。この曲集が書かれた前年の親友メンデルスゾーンの死は、シューマンに大きなショックを与えたようです。この曲集ではメンデルスゾーン(の無言歌)を思わせる音型や曲想が所々に姿を見せ、彼の死を悼むシューマンの心の陰影がよく現れているように思えるのです。

●第1曲〜『森の入り口』
森の入り口に佇み、ヒヤリとしたその神秘的な霊気を感じるような曲です。中間部分では延々14小節も解決なしに属7和音上にとどまり、一種の旋法風な和声を見せます。この調性上の曖昧さが森の神秘的な雰囲気によくマッチしているのですが、同時に晩年のシューマンが見せた、新しい和声への試みと見ることもできます。

●第4曲〜『不気味な場所』
この曲頭にはE.ヘッベルの詩が付してあって(元々各曲にあったらしいですが、最終的にはこの第4曲だけに残った)、その大意は;

花達は高く伸びているが、ここでは死の如く青白い。その中で、一輪だけ紅い花が立っている・・それは人の血を吸ったからなのだ。

・・・のようなものです。かなり気味の悪い詩ですが、シューマンのその頃の精神状態をあらわしているとも云えるでしょう。濃厚な死の香りのする、しかし美しい1曲です。

●第7曲〜『予言の鳥』
霊感の枯渇を如実に示すこの曲集にあって、第7曲目に当たるこの『予言の鳥〜Vogel als Prophet』は、それにもかかわらずシューマンの全ピアノ作品の中で最も有名なものの一つに数えられています。それは、奇妙な響きの不協和音が多用され、これが来るべ新しい音楽の『予言』と云う思わせぶりな題名と一致したからでしょう。

曲は、この奇妙な響きのアルペジオを中心に進んで行きます。これが夜の森に鳴く『予言鳥』の鳴き声と云うわけです。アルペジオとアルペジオの間には無音の切れ目(静寂)があって、如何にも森の漆黒の夜を暗示します。

 

●第8曲〜『狩りの歌』
メンデルスゾーンの無言歌集に有名な『狩りの歌』がありますが、それを心の中に秘めているような感じがします。ただ、曲想は明るく、シューマンお得意のリズミカルな和音奏による、独特のピアニズムがうかがえます。