ウェーベルン:変奏曲作品27

 

【ウェーベルンについて】
20世紀の2回にわたる世界大戦の犠牲となった音楽家、と云われるときにきまって引き合いに出されるのが、このAnton Webern(1883〜1945)と、スペインの作曲家クラナドスです。彼は第二次大戦直後の混乱期に、アメリカのMPに誤って射殺されました。グラナドスは、第一次大戦中、彼の乗った客船がドイツの潜水艦に撃沈され命を落としています。ウィットゲンシュタイン(ラヴェルが彼のために「左手のためのピアノ協奏曲」を作曲したピアニスト)も、戦争で片腕を落とした悲劇のピアニストですが、ラヴェルの協奏曲の演奏でケチがついたのでランキングは下です。

この曲を聞いて分かるとおり、ウェーベルンはシェーンベルクやベルクなどと並んで12音音楽の創生期の作曲家です。ベルクなどと比べると、非常に厳格で論理的な12音の構成を用いており、後の音列技法一般に発展する萌芽を含んだ音楽を作っています。


【12音音楽について】
12音音楽というのは、シェーンベルクによって考案された無調音楽の作曲技法の代表です。ピアノなどの鍵盤上では普通(つまり平均律を使った場合)1オクターヴは12個の半音に分割されています。この12個の音を1個1回づつ使って、もとになる音列を作り、この原音列の変奏として全曲を構成しようと云う試みです。実際にこの技法で書かれた音楽を耳にすると、鋭い不協和音の連続なので非常に破壊的なサウンドに聞こえますが、しかし、実はバッハやベートーヴェンを軸とする近代ドイツ音楽の伝統に太い根を下ろした技法です。要するに対位法から派生した動機の労作を中心とする、緊密な音楽構成法の集大成と云えるわけですから。シェーンベルクがこの技法を思いついた時に友人に語ったと云われる「私は、これで今後100年のドイツ音楽の優位が保証されると思う」の言葉がこの事情を証明していると思います。

【この曲について】
ウェーベルンの作品27のピアノ変奏曲は3つの変奏曲から成っていて、これはその第一曲です。普通「変奏曲」と云えば主題が先ず弾かれて、その後にいくつかの変奏が続きますが、上述の如く12音音楽は原音列を先ずテーマとして持っているわけですから、第一曲目からすでに「変奏」なのです。

出だしの10小節を掲げましたが、一目して分かるとおり完全にシンメトリックに構成されています。最初の4小節で原音列の12個の音が提示され、最後のG#を折り返し点にして対称型が反復されます。次の、8、9、10小節は9小節目を折り返し点にして、完全に対称です。又、8、9、10、小節で意図的に抜かされた音(H)が、11小節目冒頭で今度はで叩かれ、今度はこれを起点にして最初の音型が左右の手をひっくりかえした状態で進んで行きます。

よく訓練された耳には、この音の動きと配列がリアルタイムで聞き取れ、結果いわば「万華鏡」を見るときのような美しさで様々なシンメトリーが楽しめる仕掛けです。

ただ、このような数学的な美しさだけではなく、ピンと張りつめた緊張感の中に何か孤独な魂のつぶやき、と云ったロマン主義的な情緒が流れており、如何にも近代ドイツ音楽の本流に根ざしたもの、が感じ取られます。