ダブルシャープ

【質問の大意】
月光の曲を練習していますが、ところどころに出てくるペケ(×)のような記号は何でしょう


●まず最初に簡単に結論を書きます:

[X]のような記号は、ダブルシャープと云います。意味は、シャープ記号によって半音上がっている音を、更に半音上げることです。月光の曲で「ファ」の音は、既に最初の「調性記号」によって半音上がっています。この音を更に半音上げる為に、この記号を用います。

ピアノの鍵盤上では、「ファ」を半音上げると「ファ#」、これを更に半音上げると「ソ」のナチュラルになりますから、「ファ」のダブルシャープと「ソ」のナチュラルは同じことになります。つまり:


この二つは同じ「鍵盤」です。

これと同様に、半音下げる「フラット」の場合にも記号があって「ダブルフラット」と云い、意味はダブルシャープの場合と同じです。つまり:

この二つは同じ鍵盤です。

●次に良くある疑問として、「何故このような表記をするか?」を簡単に説明します:

ピアノで弾けばも同じ音ならば
何故だけで済まさないのか・・と云う疑問です。

実は、ピアノなどの鍵盤楽器からのみ音階を眺めますと、1オクターヴには(黒鍵を含めて)12個の音しかないようにみえます。しかし、これはピアノが音組織を簡略化して配置しているためで、実際にはもっと多くの(3倍以上)の音があるのです。弦楽器や管楽器など微妙な音程の調整が可能な楽器の奏者は、実際これを区別して演奏します。

だから、本来は以下の二つの音:

これらは、別の音なのです。このような音をエンハーモニックと云います。日本語では「エンハーモニック」に「異名同音」の訳語が当てはめられており、《同音》の語のために、見かけだけ異なって実際は「同じ音」のように誤解されやすいですが、本当は「異なった」音です。現に、音程の名称では異名同音は厳密に区別されており、例えば、ピアノ上で弾くと


この二つは、同じ音ですが、2つの音が組み合わさった音程幅の呼称では

では、前者は「増2度」、後者は「短3度」と呼んで区別します。楽典の問題では、前者を(ピアノ上では同じだからと云って)「短3度」と答えると不正解になります。

●もっと先へ進むと

更に云えば、ピアノでも調律の方式が異なると、「出ない音」が出現する場合もあります。通常私たちが使っている調律の方式では、

この2つの音は、区別しません。つまり、これらの中間の音程を採用して、1個の鍵盤で代用している訳です。しかし、異名同音を区別する調律では、これらは異なった音であり「ファ#」の音に合わせた楽器では「ソb」は出ないわけです。「ソb」を出そうと思えば、調律をやり直すしかないのです。この調律方式を重んじるのは、持続音故正確な音程を要求するオルガンで、従って、バッハのオルガン曲には「ソb」が必要な調性で書かれたものはありません。オルガンではありませんが、クラヴィコード用に書かれたインヴェンションにも「ソb」は出てこないと思います。

現在でも、これは慣習として残っており場合があり、一般に「ソb」で表す音を「ファ#」で表すことがあるようです。

しかし、この問題は大変奥深く、ここでは書き切れません。もし、これ以上の知識が必要なら私のホーム・ページ内の「エッセイ」に「純正律と平均律」と云うのがありますので、それをお読み下さい。