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バッハ:インヴェンション8番 【質問の大意】 この曲に関しては、異なった角度からアドヴァイスを試みてみます。曲想そのものは、単純明快で、うきうきとした飛び跳ねるような楽しさいっぱい、と云った感じです。問題は、この曲想を、具体的にどのようにして表すか・・です。 (1)長さのタッチと強弱のタッチ バッハの頃には基本的には「ピアノ」はなかった事を思い出して下さい(中途半端な初期のピアノそのものは存在したけれども、性能が悪くてバッハは興味を示さなかった)。バッハが弾いた鍵盤楽器は、ハープシコード、オルガン、クラヴィコード(基本的にインヴェンションなどは、バッハの好んだこのクラヴィコードで弾かれたのではないかと思います)、等です。 ところで、ピアノと異なってこれらの楽器では強弱のタッチはそれ程効きません(クラヴィコードは別の意味で「タッチ」が効きますが、しかしピアノのようなダイナミックを中心とするタッチではありません)。しかし、強弱が効かないからと云ってタッチの変化がないわけでは決してなく、「長さのタッチ」が重要になってくる訳です。 具体的な例で云いますと、強弱のタッチがある場合、主たるメロディは強く、伴奏部分はそれよりも弱く弾きます。これで、伴奏からメロディが浮き出てくる訳です。しかし、強弱のタッチがない場合、これは「長さのタッチ」の違いで弾き分けるのです。 例えば、私の演奏でのインヴェンション4番(ニ短調)では、冒頭を次のように弾いています。
2小節遅れて左手が主旋律として入ってきますが、これに対し伴奏である右手は、「弱く」弾いて左手を目立たせる訳ではなく、少しスタッカート気味に弾いています。これで、音量が同じでも、右手左手に主従の関係を作ることが出来るのです。 一般的に、バッハを弾く場合この「長さのタッチ」には非常にデリケートでなければなりません(単にスタッカートとレガートの2種類があるのではなく、長さの違いによってスタッカートにも幾種類もがある、と云うことに注意して下さい)。特に、強弱のタッチが可能なピアノで弾く場合には、ともすれば忘れがちになりますが、この長さのタッチの微妙な変化に気を付けることで、品の良い表現が可能になります。バッハを弾く場合のコツと云って良いでしょう。 (2)具体的に 8番の冒頭を取り上げますと、次のようになります。
・Aの音型は「鋭い」スタッカートです(左手に来ても同じ!)
アクセントは、ピアノの場合強く弾くことで付けることが出来ますが、それをやりすぎると、下品になると云うか、ダイナミックに鳴りすぎると云うか、とにかく「軽やかな」感じが削がれてしまいますので、注意して「長さのタッチ」を試みる訳です。このようにする事で、バロックの「運動的な」パッセージが、例えば、ショパンやリストのような華やかでダイナミックな鳴り方ではなく、軽やかに鳴ってくれます。是非、身につけたい表現方法です。ちなみに、モーツァルトも基本的には同様の手法で表現しますと、ベートーヴェンとは異なった格別の味が出てくると思います。 お分かり頂けましたでしょうか?音楽を文章で説明することは、かなりつらいものがあり、うまく伝わるかどうか不安ですが、レッスンを受けておられる先生の模範演奏などに耳を澄ませて、微妙な長さのタッチのニュアンスなどは、是非、そのレッスンの際に吸収して下さい。 |