和音奏
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【はじめに】
純正な音程で奏された弦楽合奏や、特に金管合奏では和音は大変美しく響き、聞き惚れることもありますが、平均律に調律されたピアノではそのような響きの美しさは望むべくもありません。しかし、そのような制限の中でも和音を『美しく響かせる』努力は必要です。この『美しく響かせる』為の努力を実際に聞いてみましょう。 次の演奏を聞いて下さい。曲はブルグミュラー 作品100から第19曲「アヴェ・マリア」の冒頭です(ライブラリ3)。 1回目と2回目では、和音の弾き方を変えています。ちょっと聞きには1回目のもので充分弾けているかと思われるかも知れませんが、2回目のものと聞き比べると、その違いは歴然としていると思います。つまり、2回目の方がずっとクリアで透明感があり、優しい音色に聞こえます。
この聞こえ方の違いをつくる原因を考えましょう。 例えば、次のような和音でも弾き方によって『響き』のニュアンスは大きく変わります。
@和音構成音各々に配分された『強さ』の割合 この2点です。 上の例で云えば、(A)は「発音のタイミングが揃っていない」、(B)と(C)は発音のタイミングは同じですが、各音への「強さの配分」が異なります。 『発音タイミング』については、殆どの場合『揃っている』方が和音はすっきり響きます。しかし、『強さ』の配分に関しては、響きのニュアンスは大きく変わりますが、どれが『美しい響き』であるかは一概には決められません。自分の耳と音楽性との協力で、どのように響かせるかを決めなければならないので、これはなかなか曲者です。一般論として云えば、ソプラノが最も強く、次にバス、内声は若干控えめに、と云った感じです。とりわけ、内声部に和音の第3音が含まれる場合、平均律ピアノでは余り目立たせないのが良策だと思います。
発音のタイミングが揃うと云うことは、鍵盤に触れてから後、各指が同時に鍵盤の底につくと云うことですが、弱い指はどうしても鍵盤の抵抗に負けて、遅れがちになります。これを防ぐために、指をやや固くして「手首」で打ち下ろす事が必要です。やわらかい指で弾くとどうしても弱い指が遅れて、後から鳴ってしまう音が生じるのです。手を固めて腕で ff に打ち込めば、音色は別にして、とりあえず同時の発音を得ることは出来ます。 従って、和音奏の第1のポイントは「指を固める」ことです。これによって「同時発音」を得ます。ただ、それだけでは微妙な強弱のコントロールを得ることが大変難しく、良い音色を得ることは難しい訳で、良い音色の為にはどこかで力を抜いてやる工夫が必要です。固い指と柔軟なタッチ、と云う、一見相反するこの二つを折りあわせるのが、「肘」をショック・アブソーバとして使うと云うテクニックです。つまり、第2のポイントは「ショック・アブソーバ」です。レッスン・ルームの「様々なタッチ」の項目に書いた「肘のタッチ」がこれに該当しますので、読み直して下さい。 もう一度、最初の「アヴェ・マリア」の演奏を見て下さい。1回目の演奏では、かなり強めに手首で鍵盤を叩いているのが分かるかと思います。2回目の、音色を意識した演奏では(画面では大変微妙ですが)肘が動いて、打鍵の力を逃しアジャストしているのが分かります。音の強さも2回目は随分減じられていますが、これは「肘」をショック・アブソーバとして打撃力を吸収した結果です。このようにして、「同時打鍵」と「ソフトなタッチ」とを両立させます。
以下に、参考までに私の弾いた和音を掲げます。参考になさって下さい。
和音を連続させて弾くのは、大変難しいテクニックです。基本的には、当該和音を弾く為の『手の形』が記憶されていて、鍵盤に実際触るまでに、その一定の形が整えられていなければなりません。鍵盤に触ってから音を探すのでは遅いわけです。和音を連続させる場合には、一つの和音を弾き終わってから次に移る僅かの合間に、『次の和音に対する手の形』を準備しておかなければなりません。 @空中で、弾くべき和音を想定して手の形を整える 多くの曲例を弾く内に、様々な和音に対する手の形が自分の中に記憶されて、楽譜を見ると手が自然にその形をとるようになります。手の形と同時に、鍵盤に接触した感覚も覚えられ、例えば次の和音だと:
2、3、指が黒鍵を打つ指先の感触も同時に記憶します。反復練習によって、このような「記憶」が蓄積されることが大事で、これが出来れば和音の連続もさして、難しいとは感じなくなります。
もう一つ、和音奏に強くなる練習を(私の個人的な経験から)云うと、ジャズピアノスタイルのブロック・コードのパッセージを弾くことです。メロディ・ラインは既成のものでも、アドリブ・ラインでも、或いは既成のものをフェイクしたものでも何でも構いません。要点は、打鍵する和音が「楽譜」の形では与えられないで、「自分の頭の中で」組み立てられる事です。どの音とどの音を押すのかと云うことが、「楽譜」ではなく、自分の意志で決まり、今度はその意志に従って「手の形」を準備する動作が要求されます。しかし、実際上、どの音とどの音を押さえるかと云う判断と、これに伴う手の形の準備は、ほぼ同じ動作に含まれます。だから、この方法は「読譜」と云う余分なプロセスを省略する意味で大変合理的であり、和音押鍵には効果的な練習となります。 ただ、この方法は、全くの入門レヴェルでは難しいかも知れませんが、少し進んできた方、或いは、指は中級程度に動くようになって来たけれども、和音奏はどうも苦手、と云う方にはお奨めです。初歩的なコード進行法の知識さえあれば、ジャズのイディオムで和音を組み立てることは容易ですから、「自分で和音を組み立てながら」弾く練習を是非取り入れられる事を奨めます。例えば、ハ長調の音階を念頭に置いて、次のようなパッセージをその場で組み立てながら弾くわけです。「楽譜」はない訳ですから、その都度弾く和音の構成音が変わっても何ら問題ありません。逆に、その方が応用が効いて、練習になります。次の例は、私がハ長調の音階をこの方法で弾いてみたものを後から採譜しています。
多くの方が、この楽譜を見て弾くことにはゾッとすると思います。しかし、「読譜」を省いて自らの判断で、和音を決めると云う、ジャズ・イディオムでは、これは難しくありません。そこが、この種の練習の狙い目なのです。
音階、アルペジオと同じく、和音奏も実際曲の一部分で行うと、サウンド・イメージが描きやすく、大変良い練習になります。 【例1】
このパッセージの楽譜が必要な方は、以下から:
【例2】
「和音奏」は、ピアノの様々なテクニックの中で、音色の問題がもろに出てしまうテクニックです。考えてみれば独りで5音も10音も同時に奏でられる楽器は、ピアノかオルガンくらいのものですが、オルガンにはタッチの強弱と云う問題が存在しませんから、その意味で音色が直接弾き方に関係してくると云うことはありません。とすれば、この和音奏は、ピアノの見せ場と云っても良いと思います。逆に言えば、ピアノを練習する上で避けては通れない重大なテクニックでもあるのです。それを念頭に、様々な工夫を凝らして練習し、美しいサウンドの「和音奏」テクニックを獲得して下さい。 |